2017年7月21日、北海道札幌市にて、スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(以下S-NET)のセミナーが行われた。さまざまなプレイヤーが集う場であり、それを支援するS-NET。北海道セミナーは、国内外の衛星データ利用による新たなICTサービスの創出に向けて議論し、専門家による基礎知識の講演で理解を深め意見交換を行った。
ビッグデータ時代の新たな衛星データ利用
開会挨拶として、経済産業省製造産業局宇宙産業室の靏田将範氏が登壇。「ビッグデータ時代の新たな衛星データ利用」について講演を行った。
「近年、衛星から得られるデータは、質と量ともに向上している。AI等の解析技術が進展している現在、衛星から得られたテータをビッグデータの一部として様々な課題解決につながるソリューションサービスが提供されるなど、宇宙ビジネスの可能性は少しずつ広がっている。」
一方、宇宙機器産業の現状として「それほど大きくない市場の中で官需の占める割合が多い」とし「宇宙ビジネスは第四次産業革命の中心となっていく」と言う。ビッグデータ政策の中に衛星利用を含むという前提を置き「ソリューション型のアプリケーション産業の発展を後押しするためにも、インフラとしての衛星サービス、ロケット打ち上げサービスの充実が必要だ」とした。
宇宙産業政策の新たなビジョン
次に登壇した、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の平田卓也氏も、宇宙ビジネスは第四次産業革命を進展させる駆動力だと続ける。内閣府が2017年5月に発表した、「宇宙産業ビジョン2030」を引用して、国の施策の方向性とともに講演した。
その中で、本シンポジウムを開催するS-NETの役割について説明。S-NETの持つ役割は、新規事業を生み出すネットワークを作ることであり、これまで宇宙と関係がなかった非宇宙の企業と、宇宙業界関係者を融合させ、新しいビジネスを創出していくことだと説明した。また、衛星データ利用の促進には、衛星データのカタログ整備や政府衛星データのオープン&フリー化など、衛星データへのアクセス環境を改善することや、モデル実証事業を通じて先進的な成功事例を創出し、衛星データ利用の有効性を明確にしていくことも重要と説明。「海外では新たなビジネスを見据えた取り組みが始まっている。今後も検討を続けていく」とした。
開催趣旨説明
次に開催趣旨について、CO-WORKS代表の飯島ツトム氏が説明した。本年度より、S-NETは「Co-Creation」を副題に活動を行っている。共創をテーマに新しいビジネス機会創出の場作りとして活動していく試みだ。「技術が進歩し、見上げる宇宙から見下ろす地球へ、視点が変わった。その中で S-NETは、人・アイデア・地域・情報・資本の、新しい組み合わせを創出するネットワーキングを創っていく。また、地方創生を醸成する、地域創造拠点間の連携も行っていく」とした。
新たな旅行産業 ~宇宙関連ビジネスとツーリズム、SNS活用~
国の方向性や現在の宇宙ビジネスが持つ課題など、宇宙ビジネスの現状について把握したあとは、より具体的な事例を、有識者が講演した。
まずは、大手旅行会社である株式会社エイチ・アイ・エスから村松知木氏が登壇した。村松氏はオープンイノベーション事業部部長、兼、新規事業開発室室長であり、企業間の連携や新しいものを生み出すにあたってのポイントなどについて講演。「他県(ソトモノ)のノウハウを、自分の県、本日の場合は北海道(ナカ)でどのようにマッチングするかが大切」と語る。エイチ・アイ・エスも多くの統計を使いアプリケーションなどを開発しているが、村松氏は「出口のないデータは活用されていないのと同じ。データはアウトプット、つまりどのように消費者に届けるかを考えて利用しなくてはいけない」と、エンドユーザーに向けたデータ利用について説明した。
防災分野等における地球観測データの活用について
次に、衛星データ活用について、一般財団法人リモート・センシング技術センターの研究開発部部長、山本彩氏が登壇した。衛星データが、具体的にどのような現場で利用されているのかについて「リモート・センシングという言葉についてなじみがない人の方が多いと思う」とし、わかりやすく身近な例を出して説明。地球観測衛星の一番の役割は地表を俯瞰して見ることであり、そのデータの差分などから防災・農業・空間基盤などに活かすことができると説明した。
欧州における地球観測データのサービス事例
テーマごとの講演は、宇宙ビジネスコンサルタントの佐藤龍一氏の、欧米の地球観測データのサービス事例についてが最後となった。現在ブリュッセルに在住する佐藤氏は、欧米の宇宙ビジネスについて紹介。現在欧州ではコペルニクスという、衛星データ利用のための公共インフラを整備しており、それによりオランダ、スペイン、ベルギーなど、各国で新しいビジネスが創出されているという。「衛星データ、地球観測データは作るだけでは意味がない。その後のデータ利用を中心に考えていく必要がある」「地方自治体と地元の中小企業の連携、そして官によるサービス調達を強化することが、成功のカギ」とまとめた。
宇宙技術の新たな利用方法 ~プラズマ照射による生育促進事例~
今回のセミナーでは、インプットセッションとして、さらに専門的な講演を設けていた。
株式会社フューチャーラボラトリ代表取締役であり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の参与でもある橋本昌隆氏が登壇し、宇宙技術と地上技術の融合により新たなイノベーションが起こると説明した。そのうちのひとつがプラズマを照射することで稲の生育を早めるという技術だ。「将来、有人探査基地で生育するという「地産地消」モデルになるのではと考えている。地球からすべて運ぶのではなく、現地で調達し、再利用するというパラダイム転換が起きつつある」とした。
地球画像データの新しい読み方
次に、地球画像データの読み方として、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構の中村晋作氏が登壇。「衛星データは、ヒトが見えないものが見えるということが一番の特徴」とし、衛星センサーASTERで取得した、震災前後の阿蘇山のデータについて説明した。
ポスター展示
20分の休憩時間では、コーヒーを片手に講演者に質問を行う方や、展示ブースにて各社の取り組みに熱心に見入る方などが多く見られ、参加者は前半の講演を非常に興味深く聴講していることが伺われた。
パネルディスカッション
休憩後のパネルディスカッションでは、休憩の間にパネラー同士が先の登壇内容についてディスカッションを行うなど、お互いの内容について踏み込んだ質問を行った。
ファシリテーターは開催趣旨説明を行った、飯島ツトム氏。飯島氏の質問に答える形でディスカッションが進んだ。「衛星データ活用についてそれぞれの所属する立場からどのような希望を持つか」という質問に対し6人のパネラーが回答した。
前述のテーマオーナートークの3名に加え、まずはクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の代表取締役、一般財団法人北海道オープンデータ推進協議会理事長、およびNo Maps実行委員長でもある伊藤博之氏。伊藤氏は、北海道の創生としてイベント運営を行うなど、多様な視点でデータとリアルを結びつけている。「北海道は広大な土地がある。なにか実験的なことを行いたい時にはぜひ活用していただきたい」と話す。
次に北海道大学大学院情報科学研究科教授の川村氏。川村氏はディープラーニングを専門とし、今後、膨大な衛星データの利用にはディープラーニングが必須になると言う。「ガンをAIが発見するというニュースもあるように、AIはパターン診断が得意。衛星データで自然災害の予測などができるようになるかもしれない」と話した。
株式会社ズコーシャ総合科学研究所アグリ&エナジー推進室技師である米山晶氏は、衛星データを利用した小麦の生育を図るアプリケーションを開発している。「データのフリー化、オープン化を行うことで、資金力の乏しい会社でも解析ができるようになるのではないか」と衛星データのオープン&フリー化に対し、希望を述べた。
村松氏、山本氏、佐藤氏は、衛星データがもたらす貢献について、それぞれこう述べる。 村松氏「衛星データの活用は多岐にわたると思う。異業種の人と新しいものを創っていくにはとても楽しいテーマだ」 山本氏「衛星データを利用した防災等のリスク管理を徹底して行うことは、日常を守るインフラになると思う。衛星データはその役割を果たすことができる」 佐藤氏「欧州では衛星データを活用したビジネスを興すことで、希望の土地で就職ができるようになる。雇用を創出するという点でも新たなビジネスとして非常に価値があると考える」
約1時間、パネラーとともに、衛星データがもたらす社会貢献について議論を行ったのち、飯島氏はこう結んだ。
「欧州の成功事例はトップダウンではなくボトムアップにある。それができるのは多様性を受け入れる社会だからこそ。そのためには、衛星データを通して描く未来へのストーリーが大切となる。これからの社会は、データドリブンであることはもちろんだが、ストーリーが重要となる、ストーリードリブン、そしてそれを実現するための設計、つまりはデザインドリブンも欠かせない。その3軸を持ち、実績を積み上げていく。それが衛星データ活用の道のりなのではないか」
セミナー資料ダウンロード
基調講演資料「ビッグデータ時代の新たな衛星データ利用」(4.4MB)
テーマオーナトーク講演資料「新たな旅行産業 ~宇宙関連ビジネスとツーリズム、SNS活用~」(2.6MB)
テーマオーナトーク講演資料「防災分野等における地球観測データの活用について」(6.6MB)
テーマオーナトーク講演資料「欧州における地球観測データのサービス事例」(2.5MB)