SPECIAL

未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第4回

「宇宙ビジネス創出推進自治体」の取り組み紹介(後編)
北海道/山口県

2018年7月に内閣府と経済産業省が公募した「宇宙ビジネス創出推進自治体」において選定された4道県の取り組みを紹介します。
この取り組みは、衛星データ等を活用した宇宙ビジネスの創出を主体的・積極的に推進する地方自治体を選定し、国(内閣府・経済産業省)と当該自治体との共催により、地域における衛星データの利活用拡大や、衛星データを活用したビジネス創出に資する取り組みを実施するものです。

<北海道>
衛星データ利用で地域課題を解決

北海道における宇宙産業育成の取り組みは古く、1988年に「北海道航空宇宙産業基地構想」を策定した。大樹町にロケットなどの離発着施設を作り、これを拠点に研究施設や関連産業の集積を図る構想である。現在、大樹町ではインターステラテクノロジズ社がロケット開発を行っており、北海道も支援している。

こうした背景の取り組みに加え、北海道は衛星データ利用による宇宙産業の育成にも力を入れることとし、2018年4月に「北海道衛星データ利用ビジネス創出協議会」(以下、「協議会」)を立ち上げた。北海道は面積も広く、農業、漁業、防災などの面で衛星データ利用のニーズは多い。道内には衛星データ利用の研究者やIT系の企業も多い。「それらを組み合わせれば、北海道で新しいビジネスを創出できるのではないかと考え、協議会をスタートさせた」と担当者は語る。

「協議会」のアドバイザーには、衛星データ利用の研究を進めている道内の大学の研究者が参加している。北海道大学の各分野の研究者が協力しており、野口伸教授は「みちびき」の測位データを利用したトラクターの自動走行システムを実証中で、NEXCO東日本の除雪機運転のガイダンス機能の開発にも協力している。高橋幸弘教授は農業分野での衛星リモセンデータの利用、齊藤誠一特任教授は水産分野での衛星リモセンデータの利用を研究しており、川村秀憲教授と長谷山美紀教授の専門はAI・情報処理である。また、酪農学園大学では金子正美教授が協力しており、こちらは農業分野のGIS(地理情報システム)が専門である。さらに政策面で北海道大学の鈴木一人教授が協力している。

北海道大学 野口教授による
無人トラクタの研究
道総研による
米のタンパク量分析
北海道大学 齊藤教授による
漁場予測マップ

「協議会」に参加している企業は現在72社(2019年1月31日現在)。特にIT関係の企業が多く、新しいデータビジネスとして衛星データ利用に関心をもっていることがうかがえる。このほか、農業や建設分野の企業も参加している。農業での衛星データ利用にニーズがあるのは当然だが、建設関係も最近はi-Construction(アイ・コンストラクション)の流れがあり、測位データの利用や建設機械の自動化に関心が集まっている。

「協議会」の機能は大きく分けて3つだ。
1つめは情報提供で、有識者の講演などにより様々な情報を提供してもらっている。第1回目は衛星データの活用について、第2回目はリモセンデータの農業への活用及びSARデータのインフラ監視への活用について、第3回目は準天頂衛星を活用した利用展望、測位衛星と地球観測衛星を用いた高付加価値畜産経営のための実証事業がテーマであった。

2つめの機能は宇宙ビジネスに興味をもつ企業を対象にした相談・アドバイスである。すでに道内の企業のプロジェクトが平成30年度の内閣府の実証事業として採択されているが、これは協議会への相談が契機となっている。

3つめの機能は事業化の促進である。現在、農業分野で2つのプロジェクトチームが立ち上がっている。Aチームは、衛星データで輪作の作付け状況を識別し、圃場管理を簡素化することを目標にしている。十勝地域では小麦、大豆、ビート、馬鈴薯の輪作を行っており、各農家の作付け状況を農協が聞き取り調査をしている。しかし大変な労力を要するので、これを衛星データで把握しようというものである。このプロジェクトには10社が参加し、2019年3月までに検討作業の成果をまとめ、2019年度に実証することを目指している。Bチームは、衛星データで農作物の生育状態や病害虫の診断をすることを目標にしている。こちらは高橋幸弘教授が開発したハイパースペクトルカメラでの観測を行うもので、15社が参加している。

「協議会」ではインフラ監視や防災への取り組みも考えており、2018年11月27日には、この分野へのSAR(合成開口レーダー)データの利用に関するセミナーを行った。さらに、S-NETと連携して衛星データに関する基礎講習会(2018年10月31日)や宇宙ビジネスセミナー(2018年12月6日)なども積極的に開催している。

「北海道でも農業や漁業の担い手が不足しつつある。衛星データの利用で作業の効率化や質の向上が図られるのではないか。「協議会」での活動によって、さまざまな地域課題を解決するサービスが生まれてくることを期待したい」と担当者は語っている。 ビジネス化についての相談などは、小さなことでも積極的に行ってほしい。

【プロジェクトに関する問合せ先】
北海道衛星データ利用ビジネス創出協議会事務局
(北海道経済部産業振興局科学技術振興室(担当:北風、渋谷))
電話番号:011-204-5127
メール:sogo.kagi1@pref.hokkaido.lg.jp

<山口県>
JAXA、大学との連携協力体制に基づく、
衛星データを活用した新事業創出の推進

山口県は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の西日本衛星防災利用研究センターが県内に設置されたことを契機として、衛星データの活用による新事業創出に向けた産学公の連携協力体制を整備し、県内企業の宇宙利用産業分野への参入促進を図っている。

平成28年3月、政府関係機関の地方移転により山口県へのJAXAの一部機能移転が決定されたことに伴い、同年9月、JAXA、山口大学、山口県の3者により、衛星データの応用研究や利用促進に相互に協力して取り組み、衛星リモートセンシング技術の利用を推進することを目的とした「衛星データ利用・研究の推進に係る連携協力に関する基本協定」が締結された。そして、平成29年2月にJAXAの西日本における衛星データの防災利用等に係る拠点として、西日本衛星防災利用研究センターが山口県産業技術センター内に設置された。

JAXA、山口大学、山口県の3者による連携協力協定に基づき、JAXAは、山口県及び山口大学と共同で防災分野等における衛星データの利用・研究を推進するとともに、山口県及び山口大学が行う宇宙教育活動や人材育成等へ協力する。また、山口県は県内の市町、防災関連機関と連携し、防災分野等における衛星データの利用を推進するとともに、衛星データの利用拡大に必要な地域産業との連携体制の構築等を行い、山口大学は防災利用等に係る衛星データ解析技術の研究、人材育成、宇宙教育活動を行う。

「衛星データ利用・研究の推進に係る連携協力に関する基本協定」連携イメージ

平成29年2月にJAXAの西日本衛星防災利用研究センターが開所し、同年3月には宇宙利用産業への参入意欲のある県内企業と山口大学、県内公設試験研究機関、関係団体、自治体等で構成する「衛星データ解析技術研究会」が山口県産業技術センターに設置された。さらに県は、「宇宙利用産業」を次代を切り拓く新たな成長産業として位置づけ、山口大学における人材育成等の取組と連携して、衛星データを活用した新事業創出に取り組む県内企業への支援を強化する「やまぐちSPACE HILL構想」を産業振興の重点施策として立ち上げている。

衛星データ解析技術研究会では、昨年12月までに、先行事例等に関する講演会等を行う「研究会」を8回、データ解析技術等の習得を図る「技術セミナー」を20回、テーマ毎のデータ活用方策を検討する「ワーキング会議」を5回開催する等、精力的に活動を展開している。平成29年7月には「「宇宙・地理空間情報・ビッグデータ・IoT」による地方創生の新たなモデル」というシンポジウムを開催しており、このシンポジウムには県内企業等から約120名が参加し、地元の関心の高さをうかがわせた。

衛星データ解析技術研究会 体制図


また、国が公募した実証プロジェクトに、研究会会員企業が代表を務めるグループの提案が、これまで3件採択されている。平成29年度の内閣府「先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」に採択された「衛星ビッグデータを活用した里山黄金郷創出事業~竹林から~」は、宇部市の里地里山環境保全に必要な情報を衛星データと地上データから作成し、竹林の整備等の業務の効率化・省力化を図ることを目的としている。平成30年度は2件が採択されており、内閣府のプロジェクトでは、漁船の操業情報の収集等により漁業支援を行う「「衛星データによる漁業操業ナレッジベース構築と支援サービス事業」が採択され、経済産業省の「衛星データ統合活用実証事業」では、衛星データ活用により森林コンサルティングを行う「衛星・地上データによるバイオマス資源の地産地消で儲かる林業」が採択されている。

平成29年3月の衛星データ解析技術研究会の設立以来、これまで述べたような活動を展開し、既に国の実証事業プロジェクトの採択を得ているのは、かなり立ち上がりが早いと言ってよいだろう。

県の担当者は「国の実証プロジェクト等で実績を積み重ね、地元企業の宇宙利用産業分野への参入を促進することで、いろいろな分野での衛星データの活用にチャレンジしたい。将来的に衛星データに関するインフラ整備が進めば、データ活用の範囲がより広がっていくものと期待している。」と語る。また、県内の企業に対しては、「今は敷居が高い印象を持っているかもしれないが、衛星データによるサービスの提供は、近い将来において非常に身近になる分野で、アイデアで勝負できる。気軽に研究会に参加いただき、事業化のアイデアがあれば産業技術センターに相談してほしい。」と期待を寄せている。

【本プロジェクトの問い合わせ先】
山口県 新産業振興課
TEL : 083-933-3143  FAX : 083-933-3159 
Eーmail : a16900@pref.yamaguchi.lg.jp

インタビュー&文構成
一般財団法人日本宇宙フォーラム
宇宙政策調査研究センター フェロー
寺門和夫

「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定された4つの自治体に話を聞き、まず感じたのは、それぞれの自治体が自身の強みを生かして宇宙ビジネス創出に取り組んでいるということである。

北海道は以前から衛星データ利用の先進的研究に取り組んできた研究者や、道内の多くのIT企業を取り込んでいる。茨城県は地元にJAXA筑波宇宙センターを擁し、JAXAや多くの国立研究機関との連携を強化しようとしている。福井県はモノづくりの企業が多い点を生かし、「県民衛星」という非常に明快な目標を打ち出した。山口県はJAXA機能の一部移転を衛星データ利用の産業育成や人材開発のチャンスととらえている。

宇宙ベンチャーの創出や既存産業の宇宙分野への参入には、クリアすべき多くの課題があり、現在はまだ国や地方自治体のサポートが必要である。今回取材した自治体では、自治体が主体となって事業化を促進する仕組みがつくられ、そこに宇宙に興味のある企業が参加し、国の資金が有効に利用されている。国、自治体、企業という三者の関係がうまく回転しているように思われた。

とはいえ、取り組みは始まったばかりであり、実績を1つ1つ積み重ねということが必要である。その意味で、国の実証プロジェクトの利用は大きな意味をもってくるであろう。また、事業化のスタート時点だけでなく、資金の調達やビジネスを成功にみちびく戦略策定においても、宇宙利用に関して多くの知識や情報を持っている専門家、有識者の役割は、これまで以上に重要になってくると思われる。

高度な宇宙技術へのアクセスや、さらには海外の宇宙技術へのアクセスを考えた場合、相談すること自体が1企業では手に負えないこともある。このようなケースには宇宙技術に詳しいコーディネーターも必要になってくるであろうが、宇宙に関するビジネス化についての相談窓口が増えたことも追い風になっている。
以下に政府や関係機関が実施しているビジネス相談窓口を挙げておく。
コーディネーターへの相談も可能なので利用してみるのも手だ。

総じていえることは、宇宙ミュニティのもつさまざまな情報、ノウハウ、経験をうまく利用することが事業成功の鍵である。そして宇宙コミュニティ側も、そのような活動を支援する準備ができているといえるだろう。 さらに、今後この4道県に続く自治体が日本全国から出てくることを期待する。

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