SPECIAL

未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第24回

宇宙港と衛星データ、宇宙を核としたエコシステムの創出へ。
大分県 堀 政博

2020年4月、大分県は小型人工衛星の空中打ち上げシステムを開発するヴァージン・オービットとパートナーシップを結び、大きな注目を集めました。大分空港は3000m級の滑走路を持ち、ランチャーワンロケットのキャリアであるB747航空機が離発着できることからアジア初の水平型宇宙港(スペースポート)として、早ければ2022年から人工衛星の打ち上げを目指します。世界では超小型衛星が増加し、打ち上げ機会が求められています。その中で、現在はロシアやインド、ニュージーランドで行われている打ち上げ需要を日本に取組むことが期待されます。「スペースポートの県」として注目を集める大分県は、2020年に内閣府の宇宙ビジネス創出推進自治体として新たに採択されました。大分県でこれからどのような宇宙ビジネスが始まるのか、大分県商工観光労働部 先端技術挑戦室先端技術挑戦班 堀政博主幹にうかがいました。

  • Cosmic Girl(ボーイング747-400を改修した機体)

  • 大分空港(大分県国東市)

--大分空港に開設されることになった宇宙港の事業は大変注目を集めました。小型人工衛星の打ち上げロケットを展開する「ヴァージン・オービット」との提携はどのような経緯で実現したのでしょうか?

堀: 2018年10月、九州工業大学の奥山圭一先生の研究室が開発した超小型人工衛星「てんこう」がJAXAの「温室効果ガス観測技術衛星2号(GOSAT2)」と一緒にH-IIAロケットで打上げられました。このとき、大分県内の4企業がこの「てんこう」の開発に参画しています。人工衛星開発に関わったことで、大分県では、航空宇宙産業は市場として有望だと考えられるようになり、参入のきっかけを探っていました。このタイミングで、(一社)スペースポートジャパンから宇宙港についての話があり、宇宙産業とつながることができる好機ではないかと考えたわけです。
また、「第33回 宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)」という国際学会が、2022年2月に大分県別府市で開催されることも決定しています。

ISTS大分別府大会の実行委員長は、超小型衛星の開発で先駆的な東京大学の中須賀真一先生です。ヴァージン・オービットのロケットが想定している市場も小型衛星の打ち上げですし、小型衛星を活用した宇宙ビジネス分野であれば衛星データとして活用される可能性が高いと考えていました。ちょうどS-NETの宇宙ビジネス創出推進自治体の募集が2年ぶりに行われ、宇宙港を核としたエコシステムの創出や衛星データを活用した宇宙ビジネスを考えていく方向で応募しました。結果、2020年9月に自治体に採択され、2021年以降は「宇宙港(スペースポート)」と「衛星データ」という2つの柱で、宇宙港を核としたエコシステムの創出に向けた取組を進めていく方向でいます。

宇宙港の構想は「アジア初」と言われています。前例がないということでもあり、そのため大変な部分もありますが、関係機関とも話をしながら準備を進めているところです。

--宇宙港に加えて衛星データ利用もカギになっていますね。

堀: 私の所属する部署は「先端技術挑戦室」という名前ですが、先端技術への取組を重要な課題と位置づけている県の方針を反映しています。これまでにIoTやAI、アバター(遠隔操作ロボット)の実証などをやってきました。県内にドローン実証フィールドをつくるといったことにも取組んでいて、宇宙はこれまでの取組と繋がりやすいと思います。たとえば、宇宙で使われるアバター技術「AVATAR X Program」との連携や、ドローンの位置情報に準天頂衛星の測位信号を活用することなどが考えられます。衛星やAI、IoTなどは、バラバラではなく、つなげていくことが必要です。

--衛星データを活用・利用する分野で現在はどのようなところが考えられますか?

堀: 例えば、現在、大分大学と県内企業のザイナス、そしてSAPジャパンは「防災・減災のための情報活用プラットフォーム(略称:EDISON)」というプラットフォーム構築を進めています。ドローン、地上から取得したデータを地図情報に落とし込むプラットフォームです。2020年7月にも九州北部豪雨という大きな災害がありましたが、こういった防災、減災分野に衛星データも活用できるのではないかと考えています。
たとえば、光学衛星のデータは雨天では使えないため、SARなど別の衛星を利用することや、降雨の後に地上で把握されていなかった被害が出ていないか調査するといった場面で活用することが考えられます。現状、地上のセンサーやドローン等でやっていることに、衛星データを加えることで、機能の向上や、コスト面の効果が得られないか、検討を始めたところです。

また別府市には1965年に設立された「太陽の家」という東京パラリンピック日本選手団団長を務められた中村裕博士が設立された社会福祉法人があります。このような地域の背景を活かし、福祉の分野でも衛星データを活用できないかと考えています。衛星の位置情報を使って安全を守るなど、障害を持った人が暮らしやすくなる分野への活用です。これまで大分県が培ってきた分野で、衛星データや人のネットワークを乗せようというのが取組の方向性のひとつですね。

--宇宙ビジネス、衛星データ利用を進めるにあたって課題はありますか?

堀: 民間企業の調査ですと、大分県内の企業で宇宙ビジネスや衛星データに関心がある企業は20社程度とのことで、まだ、少ないですね。衛星データにはまだ触ったことがない、これから触るという企業が多い状況です。

県内で宇宙ビジネスに取組んでいる企業は、現状あまりないのですが、IT関係の企業さんから、GPSを利用している現状のシステムに衛星データを導入すればもっと精度が上がるかもしれないといった相談を受けたことがあります。その際、衛星データを活用するにしても、どんな手順を踏む必要があるのか、どんなプログラミングをするのか、データのライセンス契約や入手方法はどうなっているのかなど、なかなか、見えていないとのことでした。そこで、衛星事業者と県内で課題を持っている企業とをマッチングして、ぼんやりしていて像がつかみにくい部分をすり合わせていくことが重要だと考えています。

--衛星データの利用促進の取組みが必要だということでしょうか?

堀: ただ、衛星サービスを既存の事業にそのまま導入しようとしても、うまくはいかない、という声はあります。衛星データを使うことが目的になってしまってはいけないし、課題を解決するためには、ドローンで解決できるかもしれませんし、地上のセンサーで間に合うならばそれでもよいはずです。今後、データソースとなる衛星は増え、現在は数日に1回程度の観測頻度や解像度が上がって、よりリアルタイムに近くなる展望もあります。大事なことは、今のうちに課題を洗い出しておくことです。「データの更新頻度が3日に1回では使えない、半日に1回なら使える」ということが課題ならば、ロードマップ上で数年後には見えている高頻度観測の世界が実現するまでに地上でできることはないか? ということを考えることが大切ではないかと考えています。また、金額面で折り合いがつかない、初期費用が大変だ、ということなら、農林水産関係やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連などの補助金が使えるかもしれません。いずれにしても、数年後を見据えて課題の把握が大切です。

--県がそうした衛星側と利用企業側のコーディネートをする場合に大切なことはありますか?

堀: 県が地域課題の解決だけを目的に走ってしまうと、経済性が生まれなくなることがあります。いつまでも県や行政がお金を出さないと運用できない衛星サービスやデータサービスでは続かないですし、1~2年でなくなっては意味がありません。持続可能性を考えると、出会いは県が後押しできても、動き出したら利用者の支払いで費用が回収できるような、サービスや仕組みを考える必要があります。実証ばかりで社会実装されないといったことにならないよう、官の果たすべき役割はもちろんきちんと実行しますが、民間の動きをある程度最初から頭に入れて取組を進める必要があると考えています。

――民間でビジネスになることを見据えた宇宙ビジネス、衛星利用推進のために必要な県の役割とはどのようなものでしょうか?

堀: 小規模であっても「場所」が重要だと思います。言いにくいこと、表には出しにくいようなことも言えるような場をつくることで、ビジネスの観点ですり合わせができる可能性があります。S-NETセミナーのように、リモートセンシングの専門家と直接つながることも必要です。そうした専門的なことは、最初からオンラインですと抵抗が大きいかもしれません。オンラインでは質問しにくい、怖いと思ってしまっても、会ってみればそうでないこともよくあります。そこで、最初は小規模かつオフラインで、個別相談会のような形でできないかと思っていますが、このような「場所」づくりが一つの県の役割だと考えています。

Axxxx

2020年11月に大分で開催したS-NETセミナー 勉強会の模様

そして本当に動き出す段階になれば、民間で宇宙産業を盛り上げようとしてくれる人たちに、バトンを渡したいと考えています。minsoraの宇宙ビジネスナビゲーター髙山久信さんをはじめ、宇宙関連分野では大分県にゆかりのある方々がいらっしゃいます。専門家ならではの視点から、課題を持った企業が本当につながるべき相手とのつながりを後押ししてもらうなど、ご縁を活かして、大分県の強みとして連携していきたいと思います。

インタビュアー: ライター 秋山 文野


取材協力
大分県商工観光労働部 先端技術挑戦室先端技術挑戦班 主幹 堀 政博

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