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未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第38回

地上と宇宙をITでつなぐ 株式会社JSOLの非宇宙産業からの挑戦
株式会社JSOL
法人ビジネスイノベーション事業本部 秋本 敏樹
業務推進本部 藤田 聡明

様々な業態の企業に対し、幅広いITソリューションを提供するJSOLは、新たな事業領域として宇宙ビジネスへ歩みを始めた。「IT企業」から「宇宙IT企業」へ。これまで宇宙とかかわりのなかったJSOLが新たな事業として宇宙ビジネスに参入した経緯や、その際に実感したソリューション創出のエッセンスについて、現在JSOLで宇宙ビジネスを推進する法人ビジネスイノベーション事業本部 秋本氏、業務推進本部 藤田氏にお話を伺った。

「宇宙IT企業」JSOLへ
東京・九段下に本社を置くJSOLはITコンサルティングやシステム企画から構築・運用に至るまで、一貫したトータル・ソリューションを提供するシステムインテグレーション企業だ。各企業にあわせた会計システム・販売システムなどの基幹システム構築をはじめ、顧客本位を目指したソリューション提供は、製造業から、医薬、金融機関、メディア、流通・サービス業、公共分野まで幅広い業種業態の顧客から継続して支持を得ている。

そんな数多くのITプロフェッショナルを抱えるJSOLが、昨今、新たな事業領域拡大を目指して取り組んでいるのが宇宙ビジネスだ。これまで、宇宙とはかかわりのなかったIT企業が、なぜ宇宙ビジネスに参入し、もともと所属も仕事内容も違うようなメンバーがどのようにして社内から集まり、徐々にその事業を広げることとなったのだろうか。
株式会社JSOL (左から)藤田氏、秋本氏

株式会社JSOL (左から)藤田氏、秋本氏

「宇宙を仕事にできたら楽しいのではないか」――宇宙ビジネスをはじめるきっかけはある社員のこんな思いつきだったという。とはいえ、もちろんこの思いつきだけで宇宙ビジネスへ参入できたわけではなく、経営陣を納得させられる道筋を見つけ、賛同してくれる仲間を集める必要があった。

自社の強みを知ること、仲間を集めること
宇宙ビジネスへの参入を検討するにあたり、「自社/自分たちを深く理解する」ことが重要だ。起業時から宇宙ビジネスを意識している企業は、世の中の企業全体で見ればごくわずかであり、そもそも宇宙との明確な関わりを持っている企業はほとんどないだろう。そのため、自社の既存の強みは何なのか、活かせるものはないか、よくよく考える必要がある。
株式会社JSOL 秋本氏

株式会社JSOL 秋本氏

もともとJSOLは、製造業務の効率化と安全性能向上を目的としたCAE(Computer Aided Engineering)技術を自動車関連企業へ提供している。この技術は、自動車ボディの衝突時のシミュレーション解析などを行うものだが、宇宙業界でもシミュレーション解析は多分に行われており、自社の既存の技術を応用することで宇宙ビジネス参入の足掛かりにできないか考えたという。また、社内だけでなく社外の様々な人材と意見交換をすることも重要だ。他企業、大学、官公庁などの違う目線を持った人と話すことで、自分たちでは見えていなかった自社の良さに気づくこともあったと秋本氏は述べる。

このように自社と宇宙の意外なつながりを見つけ、たくさんの思考と検討を経ると、少しずつ説明可能なビジネスプランというのが見えてくる。そこで、並行して重要なのが、一緒に宇宙ビジネスを進めていく仲間集め、である。

JSOLには「みらい会議」という、社員が発案したビジネスプランを役員に向けてプレゼンテーションできる場がある。ここでは、独自性や差別化といった競争優位性、収益性や市場分析結果など多角的に審査され、認められると、社内から興味・関心のある人を集めて新ビジネスの創出に取り組むことができる。宇宙のビジネスプランもこれに認められ、現在、まさにJSOLの新たな事業として歩みを始めているところだ。実際、普段は研究開発などの業務にあたっている藤田氏も、この「みらい会議」をきっかけに、JSOLで宇宙ビジネスの動きが本格化していることを知り、それまで面識のなかった秋本氏に自らアプローチしたのだという。

株式会社JSOL 藤田氏

株式会社JSOL 藤田氏

非宇宙産業による宇宙ビジネス参入戦略
仲間を増やし続けているJSOLの宇宙ビジネスチームの目線は、着実な事業の成長に向けられている。宇宙産業が確実に大きな市場に成長していく中で、5年後、10年後を見据えると、JSOLとしても宇宙ビジネスをより大きくするために、様々な市場のプレイヤーを巻き込んだ長期的な戦略が必要だ。一方で、目先1~2年において、どんなに小さくても、ひとつひとつ積み重ねを続けていくことも重要である。将来的には、宇宙ビジネスの専業部署としての確立を目標の一つとするものの、直近のマイルストーンは細かく近いところに置き、既存の自社の強みを生かした兼業体制でソリューションを提供していくことで、短期・長期双方の目線から新規事業の歩みを緩めない体制を整えている。このような両輪での動きが宇宙ビジネスに限らず新領域への参入には重要だと語る。

株式会社JSOL (左から)藤田氏、秋本氏

株式会社JSOL (左から)藤田氏、秋本氏

着実な歩みのひとつに、データ分析技術やAIソリューションも持つJSOLは衛星データの利活用にも取り組んでいる。衛星データ利活用に取り組むにあたって、よくある問題のひとつに、既に様々な企業による衛星データを使用したサービスは国内外で数多く出ているものの、なかなか普及していないということがある。例えば、既に農業と衛星データの親和性の高さは知られるところであり、昨今、生育管理アプリといった新しいソリューションも多い。しかし、実際に農業を営む方に話を聞いてみると、スマートフォンを使ったことがない方も多く、普及の進みは良いとは言えない。そこで、JSOLは自らのソリューションを売り手都合で作るのではなく、現場の声を多く聞き、吸い上げることでユーザフレンドリーなサービスの創出の検討を進めている。最近は、農業従事者や地方自治体などを行脚し、抱える問題について一緒に考え、課題を抽出することもしているという。

その他にも、DXを検討するセミナーや社会課題を考えるコミュニティでの活動にも積極的だ。DXを検討するセミナー「いのべ場」は、新規ビジネスを立ち上げたいが、アイデアが生まれないといった企業に対し、JSOLが独自に考案したフレームワークを用いたイノベーション創出セッションである。そこでは業種を問わず、様々な企業がJSOLと一緒に自社のためのイノベーション検討をすることができる。購買データや在庫データなど、自社の持つデータアセットをはじめ、いろいろなものを掛け合わせたときにどうなるか想像する際に、衛星データなどの宇宙関連技術も組み合わせることで、より広い発想になっていく。また、JSOLも参加する社会デザイン・ビジネスラボでは「企業と個人と社会をつなぐ」を理念に、社会課題解決と新規ビジネスを創出する活動をしている。この活動の一環として行われるイベントでは、他者とフラットに意見交換し、社会課題を解決したい企業・個人がつながることができる場となっている。社会課題解決に向けて衛星データを使おうとする動きは、SGDsやESGをはじめ日々活発になっており、期待も高まっている。様々な知見を持った人が集まる場に、エッセンスの一つとして宇宙や衛星データを加えることで、敷居の高い研究領域ではなく、宇宙初心者だからこそ入ることのできるコミュニティにもなりえるだろう。

地上と宇宙をITでつなぐ
秋本氏は、今後は一緒に宇宙ビジネスや衛星データ利活用を考えることのできる仲間を増やしていきたいという。サービスの提供側だけ、サービスの利用側だけ、衛星データだけ…といった一側面からでは、なかなかアイデアも出ない。関係人口が増えれば、それぞれの立場から強みを持ち寄って掛け合わせることができ、意見交換やアイデア創出もより活発になるだろう。

地上と宇宙をITでつなぐ――その実現のために、JSOLは地上にもメリットが出るようなビジネスを構築し、社会課題や新しい価値の創造に努めていきたい、と藤田氏は語る。

株式会社JSOL 藤田氏

株式会社JSOL 藤田氏

非宇宙業界から宇宙ビジネスに参入する際に気を付けること、それはいきなり完成版を目指さないことだ。どんな事業でも、最初は出来る/出来ないにかかわらずたくさんのアイデアを出す。その中から自身が進めやすい道を模索していく際に、小さくてもいいから少しずつ成功するアプローチをとることが重要だ。新しいソリューションのユーザを見つけるのは常に難しい。その時、提供者の保持する技術ありきではなく、利用者が何を求めているのか、その人たちに視線を向けて考えていくことが重要である。自らの経験をもとに、これから宇宙領域に参入する組織へアドバイスをいただけた。JSOLは、様々な人とその課題に向き合い、宇宙が誰にとっても身近になる未来に向けて、幅広く取り組んでいく。

株式会社JSOL (左から)秋本氏、藤田氏

株式会社JSOL (左から)秋本氏、藤田氏

取材協力
株式会社JSOL
 法人ビジネスイノベーション事業本部
   ビジネス・デザイン&マーケティング部  秋本 敏樹
 業務推進本部 品質・生産性改革部 生産技術推進課  藤田 聡明

2022年11月2日掲載

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