第39回
衛星データを身近な存在に
衛星データ販売・解析サービス「AxelGlobe」の行く末
株式会社アクセルスペース 中西佑介
Axelspaceは超小型衛星の開発・製造事業からはじまり、衛星データ利活用サービスに事業領域を拡大してきた。自社で運用する衛星から取得したデータを低価格で販売・解析するサービスである「AxelGlobe」は、これまで遠い世界だと考えられていた宇宙事業や既存の事業領域への衛星データ利活用を企業にとって身近な存在としている。サービスの特徴や今後の展望について、CPO（最高プロダクト責任者）兼事業管掌の中西佑介氏にお話を伺った。
手の届く場所、宇宙
超小型人工衛星の開発、製造と衛星データ利活用サービスを主な事業とするAxelspaceは、東京大学大学院在学中に手のひらサイズの超小型衛星（キューブサット）の開発と世界初の打ち上げ成功に携わったことをきっかけに宇宙ビジネスの秘めた可能性に期待を抱いた現代表取締役CEOの中村友哉氏らによって、2008年に創業された。
「Space Within Your Reach ―― 宇宙を普通の場所に」をビジョンとして掲げ、現在二つの主要サービスを展開している。一つは人工衛星の開発、製造～運用に至る複雑なプロセスをパッケージ化し、ワンストップで提供する「AxelLiner」。もう一つはAxelspaceが自社で運用する衛星コンステレーションから取得したデータ、解析ソリューションを提供する「AxelGlobe」である。
「Space Within Your Reach ―― 宇宙を普通の場所に」をビジョンとして掲げ、現在二つの主要サービスを展開している。一つは人工衛星の開発、製造～運用に至る複雑なプロセスをパッケージ化し、ワンストップで提供する「AxelLiner」。もう一つはAxelspaceが自社で運用する衛星コンステレーションから取得したデータ、解析ソリューションを提供する「AxelGlobe」である。
宇宙を身近にする「AxelGlobe」の浸透
創業当時、Axelspaceは人工衛星の開発、製造を手掛けていた。安全保障への利用に関して政府からは一定の需要があるものの、民間への普及は進んでいない状況だった。「より多くの人に衛星を利用してもらうにはどうしたら良いか。」――そんな課題を感じている中で生まれたのが、「AxelGlobe」だ。
「AxelGlobe」では、Axelspaceが自社で製造した光学衛星GRUSから取得したデータをユーザーに提供している。GRUSは森林やインフラ（メガソーラープラント、長距離パイプラインなど）のモニタリングに利活用可能な2.5mの分解能を持つ。また、衛星写真の撮影からデータ処理を含めて24時間以内にユーザーの手元に届けており、緊急撮影であれば数時間以内に提供することが可能だ。
2018年に1基、2021年に4基のGRUSを打ち上げた。1基体制では同一地点を2週間に1回撮影していたが、5基体制では2〜3日に1回の頻度で撮影することが可能となり、取得できる情報量が増えたことで衛星データの利用可能性が更に広がった。
「AxelGlobe」が提供する衛星データは産業分野を問わず利活用されており、世界中にユーザーを抱えている。広大な土地を有する欧米では、農作物の収量予測や森林モニタリングへの利活用が進んでおり、日本国内では災害発生時の被害状況把握と支援方法の策定に利活用されている他、赤潮や藻の観測といった水産業への応用も広がっている。
2020年9月29日に分解能2.5mのGRUSによって撮影された
北海道中標津町の農地とカラマツ林の衛星写真（Axelspace提供）
農作物の生育状況把握にはフィールド調査やドローン・小型航空機による航空写真が利用されるが、これらは人が自分の目で状況を確認する必要や、機械を操作して情報を取得する必要があるため、人的工数が膨大である。また、ドローンについてはバッテリー容量や通信距離といった制限もある。一方で、衛星データは省エネルギーでの運用が可能で、打ち上げ後の運用を自動化することで人的コストを最小に抑えることができることに加え、定期的に同一地点を撮影することのできる周期性などの特徴を有している。フィールド調査やドローン・小型航空機による解像度の高い航空写真と棲み分けて使うことで効果を最大化できる、と中西氏は語る。
サービスの真髄、顧客本位
「AxelGlobe」の利便性の高さは、衛星データをユーザーの身近な存在に変えた。
まずは、その提供価格である。一部の競合他社では衛星データの価格を700～800円/平方kmに設定しているのに対して、「AxelGlobe」ではその数分の一の価格で提供している。なぜ、安価なサービス提供が可能なのだろうか。その理由は撮影方法にある。例えば、数百基の衛星で地球の表面を網羅的に撮影しようとすると衛星にかかる固定費や撮影コスト、膨大なデータの転送・管理コストが発生する。その場合固定費を含めた撮影に要したコストを、数枚の販売利益で賄う必要があるため、販売価格が高価になりやすい。一方、「AxelGlobe」は現在5基の衛星で、あらかじめニーズが高いと想定される場所を集中的に撮影する方法をとっている。衛星運用にかかる固定費を抑えられることに加え、需要の高い場所を集中的に撮影することで撮影枚数を抑え、低価格での販売を実現している。
まずは、その提供価格である。一部の競合他社では衛星データの価格を700～800円/平方kmに設定しているのに対して、「AxelGlobe」ではその数分の一の価格で提供している。なぜ、安価なサービス提供が可能なのだろうか。その理由は撮影方法にある。例えば、数百基の衛星で地球の表面を網羅的に撮影しようとすると衛星にかかる固定費や撮影コスト、膨大なデータの転送・管理コストが発生する。その場合固定費を含めた撮影に要したコストを、数枚の販売利益で賄う必要があるため、販売価格が高価になりやすい。一方、「AxelGlobe」は現在5基の衛星で、あらかじめニーズが高いと想定される場所を集中的に撮影する方法をとっている。衛星運用にかかる固定費を抑えられることに加え、需要の高い場所を集中的に撮影することで撮影枚数を抑え、低価格での販売を実現している。
GRUS衛星
次に、国内外の企業とのパートナー戦略である。農業の解析に衛星データを利活用する場合には、必要な情報が地域毎に異なり独自の知見が必要となる。データ利活用のニーズは地域によって異なるため、Axelspaceが営業を含めて現地でビジネスを展開するのではなく、エンドユーザーとのコネクションを有する現地のパートナー企業と連携することでユーザーが真に求めているサービスを提供することが可能となり、効率的なサービス運用に繋がるのだ。
また、サブスクリプション形式からワンショットでの撮影まで、ユーザーの要望に応じて撮影プランを練る柔軟な対応も行っており、顧客本位な姿勢も市場から支持される要因であるといえる。
また、サブスクリプション形式からワンショットでの撮影まで、ユーザーの要望に応じて撮影プランを練る柔軟な対応も行っており、顧客本位な姿勢も市場から支持される要因であるといえる。
「AxelGlobe」の進む道
更なる「AxelGlobe」のサービス充実に向けて、三つの可能性を検討していると中西氏は語る。
一つ目は撮影キャパシティを拡大することだ。近々に4～5基の衛星を追加で打ち上げ、約10基によるコンステレーションを形成する。10基体制においては、同一地点を1日に1回以上撮影することが可能となり、緊急撮影等のユーザーのリクエストにも更に柔軟に対応できるようになる。将来的には更なる衛星の追加打ち上げも検討している。
二つ目は分解能の拡充だ。現在運用しているGRUSは分解能2.5mの中分解能だが、例えば高分解能のセンサーを搭載した衛星を追加で打ち上げることにより、中分解能と高分解能を組み合わせたサービスの提供を可能にする。これにより、中分解能で定常的なモニタリングを行い、より細部まで見たい地点を高分解能の衛星で撮影することができるようになる。将来的には様々な分解能の衛星画像を組み合わせてサービス展開していくことを検討している。
三つ目はセンサーのバリエーションを増やすことだ。現在GRUSはRed Edge*1/Near InfraRed*2を搭載しており、これらのセンサーは植物の活性度合いを解析することに適しているため農業分野に活用されるケースが多い。メタンガスや二酸化炭素をセンシングするセンサーを搭載した衛星を打ち上げることで、カーボンニュートラルなど、ESGの観点からも需要が高まっている領域で衛星データの利活用が広がることが期待される。
一つ目は撮影キャパシティを拡大することだ。近々に4～5基の衛星を追加で打ち上げ、約10基によるコンステレーションを形成する。10基体制においては、同一地点を1日に1回以上撮影することが可能となり、緊急撮影等のユーザーのリクエストにも更に柔軟に対応できるようになる。将来的には更なる衛星の追加打ち上げも検討している。
二つ目は分解能の拡充だ。現在運用しているGRUSは分解能2.5mの中分解能だが、例えば高分解能のセンサーを搭載した衛星を追加で打ち上げることにより、中分解能と高分解能を組み合わせたサービスの提供を可能にする。これにより、中分解能で定常的なモニタリングを行い、より細部まで見たい地点を高分解能の衛星で撮影することができるようになる。将来的には様々な分解能の衛星画像を組み合わせてサービス展開していくことを検討している。
三つ目はセンサーのバリエーションを増やすことだ。現在GRUSはRed Edge*1/Near InfraRed*2を搭載しており、これらのセンサーは植物の活性度合いを解析することに適しているため農業分野に活用されるケースが多い。メタンガスや二酸化炭素をセンシングするセンサーを搭載した衛星を打ち上げることで、カーボンニュートラルなど、ESGの観点からも需要が高まっている領域で衛星データの利活用が広がることが期待される。
Axelspaceと共に未来を創る
今後、衛星データの利活用を検討している事業者はどのような考え方を持つべきか。
衛星データを用いることで既存の事業領域における課題を一足飛びに解決することは難しい。そのため、まず行うべきことは自社の事業領域や隣接する分野で衛星データの利活用可能性を探ることだと中西氏は語る。例えば、既に事業の中で航空写真を使っている場合に比較的安価に利用できる衛星データに切り替えるというアプローチもある。
はじめからユニークで斬新なアイデアを通じて課題解決を図ろうとするのではなく、まずは既存の事業領域や業務のなかでどのように利活用できるのかを粘り強く構想してみることが衛星データの利活用に向けた足掛かりとなる。
Axelspaceはこれからも衛星データの利活用を目指す事業者と互いの知見を持ち寄り、事業課題の解決に取り組んでいきたい、と中西氏は力強く語った。
「Space Within Your Reach ―― 宇宙を普通の場所に」
ユーザーのニーズに徹底的にこだわり 、今後も挑戦を続けるAxelspaceから目が離せない。
衛星データを用いることで既存の事業領域における課題を一足飛びに解決することは難しい。そのため、まず行うべきことは自社の事業領域や隣接する分野で衛星データの利活用可能性を探ることだと中西氏は語る。例えば、既に事業の中で航空写真を使っている場合に比較的安価に利用できる衛星データに切り替えるというアプローチもある。
はじめからユニークで斬新なアイデアを通じて課題解決を図ろうとするのではなく、まずは既存の事業領域や業務のなかでどのように利活用できるのかを粘り強く構想してみることが衛星データの利活用に向けた足掛かりとなる。
Axelspaceはこれからも衛星データの利活用を目指す事業者と互いの知見を持ち寄り、事業課題の解決に取り組んでいきたい、と中西氏は力強く語った。
「Space Within Your Reach ―― 宇宙を普通の場所に」
ユーザーのニーズに徹底的にこだわり 、今後も挑戦を続けるAxelspaceから目が離せない。
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*1 Red Edge …可視光の赤と近赤外線の間に位置する波長。植物に光を当てたときに反射率が大きく変化することで、NDVI（植物の活性度合い）を分析することができる。GRUSが観測する波長帯は705-745nm
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*2 Near InfraRed（近赤外） … 可視光の赤と遠赤外線の間に位置する波長。植物が近赤外線を反射する特徴があり、Red Edgeと同様にNDVIの分析などに利用される。GRUSが観測する波長帯は770-900nm
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ツイート取材協力
株式会社アクセルスペース
取締役CPO(最高プロダクト責任者)／AxelGlobe事業管掌 中西佑介
2022年12月9日掲載
